……ん?
「市民権は持ってるな。今からウチのギルドマスターのとこ行くぞ」
あれ?
「連絡はしてあるからギルドホールで待ってるそうだ。お前のことも歓迎するらしいぞ、よかったな」
っていうか。
「俺入るなんて言ってないんですけど!」
朝起きたら部屋の中に例の戦士がいて。なんでもこの部屋の床で寝たらしい。俺は部屋から出てけと言ったはずだが…
寝起きでぐしゃぐしゃの髪を手櫛で梳かしながら俺は反論した。
「なんでアンタ泊まってるんだよ」
「宿の主には言ってある」
「そういう問題じゃねえー…」
呆れて物も言えないというのはまさにこれだろう。
ここまで強引な勧誘は初めて見た。いままで何人にもギルドに入らないかと誘われたことはあるがほとんど断っていたのだ。今は特に入らなくてもいいと、そう思っていたから。
まあ入れば、確かにいろいろ便利ではあるだろうとは思っているが。
観念して俺は戦士に付いていくことにした。
・
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「で、どんなとこなんだ?アンタのギルドは」
「ん?俺のギルドはギルドレベルが結構高いと思うぞ、古いしな。攻城戦って知ってるだろ?最近ギルド連盟が設立したギルドホール争奪戦。あれに使うガーディアンもレベルはそれなりだ。石像のパーツも大分集まってる」
「へー…頑張って集めてるねぇ…」
「ギルドスキルってあるだろ。高いぞ、あれは。ここにはいると一気に上がる」
「うっ…それは魅力的かも…」
「Gvも盛んだな。毎日入ってる。まあ俺はそんなに行かないけどな」
「ふーん…」
アウグスタの宿を出て、中央広場の端にいるホールテレポーターのところに向かう。俺はホールテレポーターなんぞ利用したことが無いのでこの人と話すのは始めてだ。テレポーターは俺達に気づくと話しかけてきた。
「どちらのギルドの方ですか?」
「これだ」
戦士は剣につけていた紋章を見せた。俺の角度からじゃどんな模様なのか見えない。
「かしこまりました。後ろの方はどちらへ?」
「俺もこの人と同じとこに飛ばしてください」
「少々お待ちください。…はい、こちらのギルドホールは<open>になっていますね。それではよい日をお過ごしください」
テレポーターが話終えると同時に杖を振るう。その瞬間、俺は身体が浮遊する感覚を味わった。前にいた戦士の姿も見えなくなった。街のテレポーターを使うときにも似たような感覚がするから、一応慣れてはいる。数秒すると、床に足が付いた。見渡すとかなりきれいな大聖堂のような場所だ。ギルドホールに入った事がないのでわからないが、こんなに綺麗なところなのか?
「ギルドホールにくるのは初めてみたいだな」
見ると目の前に戦士が居た。俺より先に着いていたようだ。俺は戦士の隣に並ぶと、ホールを歩き始めた。
「噂には聞いていたが、ギルドホールっつうのはこんなに広いもんなのか?まるでアウグスタの大聖堂だな」
「いや、ここはレベル5だからな。レベルが1だと小さいぞ。床も木の板で少し大きめな小屋みたいだ」
「…ん?レベル5?それって確か…」
レベル5という言葉に何かひっかかる。何故なのかと思って記憶を辿るがその前に知らない人の声が聞こえた。
「あーやっと来た!こっちだよー」
楽しそうな女の人の声が聞こえて顔を上げると、テーブルに座っている女性が目に入った。
「レオひっさしぶりじゃーん。最近はGvにもギルハンにも顔出さないから死んだかと思ってたー」
「縁起でもないこと言うなよ。ギルマスは?」
「あ、この人がギルマスじゃないのか」
「ん?あー違う違う。私は副ギルマスだよー。アーチャーのコトハ。よろしくねー。君がレオの話してたシーフ君?」
コトハと名乗ったアーチャーはとても明るい第一印象だ。初対面の俺にも気軽に話しかけてくるあたり、人見知りなんて知らないタイプだろう。
ところで気になるのは”レオ”という呼び名。
「レオ?」
「…もしかしてレオ、名前教えてないの?」
「忘れてた」
「……あっきれた。アンタねえ、ちゃんと自己紹介くらいしなさいよ」
そういえば俺の名前も教えてなかったことに気づいたが、別に今言うことでもないかと無言を通した。
「GMー。例の子来たよー」
「ん、わかった」
「来た来た」
コトハの後ろに居た人が来た。髪の長い男と、また髪の長い男の人。…説明不足だったか。片方は髪を結んでてガタイが良い。そして背中から羽根が生えている。もう片方は細くてコートを着ている。髪は結んでいなくてウェーブがかかっていた。
「…どっちがGM?」
俺はこっそり戦士に耳打ちした。戦士は目線だけで細い方だと教えた。
「始めまして。俺はギルド・天竜八部衆のGM、ウィザードのキョウでーす」
にこにことこれまた人見知りしない性格っぽいウィザードは、そう名乗った。
俺はそのギルド名を聞いて先ほどの戦士のレベル5発言にもピーンと来た。
「え!?もしかして天竜八部衆って…あの天竜八部衆!?」
「なんだ、知ってるのか」
「知ってるもなにもメチャメチャ強いって有名なところだろ!」
ギルド連盟は支部がいくつもある。各支部にギルドの数が決められていて、その数以上はギルドを登録することはできないことになっている。
そのうちのブラックオパール、通称黒鯖支部にもギルドは多く登録されているが天竜八部衆はその中でも1、2を争う超超有名ギルドだ。ただし本当に強い実力を持っているのはGMではなく、むしろその下に控えている副GM達だとの噂がよく聞こえてくる。ギルドに興味がなかった俺にも友人伝いにそれぐらいは知っている。
それにギルドホールのレベル5といったら、そのレベルの最終段階で攻城戦に勝たなければ手に入らないレアな集会所のはず。
「へー。ウチも有名になったもんだね。ってかレオっちさあ、連れてきた本人のクセしてウチのギルドの説明もしてなかったわけ?」
「忘れてた」
「……」
3人そろって呆れた目を戦士に向けた。そうか、やはり戦士はギルドの中でも少し変わった部類に入るのか…
「レオは強いがどこか抜けているんだよな…」
ガタイの良い天使が呟いた。
「えっとそちらは?」
「俺はキラーだ。普段はビショップをしているが、今日はわけあって天使の姿だがな」
「俺、天使見たの初めてです」
「そうか?最近は天使よりもビショップの方がよく街を歩いているからな。触ってみるか?」
「いいんですか?」
キラーが俺に近づいてきて包み込むように羽根を広げる。指先で触ってみると思っていた以上にふわふわだった。
「すげー。ふっわふわ…」
俺が夢中になって触っていると、後ろで声がした。
「レオ、アンタ惚れたわね」
「ああ」
「年下かー。若いっていいねえ」
「お前、俺と歳そんなにかわんないだろ」
「まだ中身的にちょっと幼いんじゃない?手ェ出しちゃだめよー」
「誰が出すか」
「でも確かに面白い子だねー」
俺が振り向くとコノハとキョウが気づいて手を振った。
「お前達な…」
キラーが呆れながら羽根を仕舞った。
「それでギルドの手続きだけどね。市民権は持ってるでしょ?」
「え?あ、ああまあ…」
「そか。じゃあコレ、ウチのギルドの紋章ね。身体のどっかにつけといてくれればいいから」
渡された紋章には蒼い下地の上に銀色で縁取られた天という文字が刻まれていた。
「そうそう名前は?」
「俺?俺は…リュウ、です」
なんとも奇跡的な話だが、俺の名前はギルドにも使われているリュウだった。
「へー!なんか運命みたいだねえ。天竜とリュウ君ってさ。そうそう俺達に敬語は必要ないから。名前も呼び捨てで構わないよー。これで君も天竜八部衆の一員だ!よろしくね」
キョウが手を出してきたのでそれを握って握手した。
キョウの横ではコノハがうんうんと頷いている。
「仲間が増えるっつうのはいつでもいいもんね。よろしくねリュウ」
「なにかあったらギルドの無線機でいつでも呼べ。ああそうだ、あとで無線でギルドメンバー全員に挨拶だけしとくといいぞ」
「わかった」
キラーに渡された無線を耳につけておく。スイッチをONにしておけばギルドメンバー達の会話がすべて聞こえるらしい。
「あーそれから君を連れてきたあいつだけどね。あいつはレオっつって、間違いなく現在ウチにいる奴らのなかで最強よ。そのせいで歩く最終兵器とか呼ばれてるわね」
「は?」
「……」
面倒くさそうに戦士が頭を掻いた。
「ま・せっかくそんな戦闘馬鹿に出会えたんだからさあ、いっぱい鍛えてもらいなって!」
コトハに思い切り叩かれた背中が痛かった。
GM:ギルドマスターの略。副GMで副ギルドマスター。まれにギルマスとも呼ばれる。ギルドメンバーでGMって呼び方もある。ややこしー
G:ギルドのこと。 GH:ギルドホール。もしくはギルハン(ギルド内メンバーだけで狩りをすること)。
WIZ:ウィザード(魔法使い)。 BIS:ビショップ。天使のときは天使って呼ばれる。
普段使ってる略語たちです。正式名称なんて滅多に使わないなあ。
ちなみに天竜八部衆は実際存在しないGです。フィクションです。
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