「見つけたぞレオー!」
戦闘音だけでもかなりの音量なのに、その声はそれを上回るほどばかでかくて。
振り向くと、声と同じようにばかでかい棍棒を振りかざして大柄の男が戦士に殴りかかるところだった。
響き渡る甲高い金属音。
「…声がでかい。鼓膜が破れる、ディーカ」
明らかにげんなりした表情を顔に出す戦士は珍しいんじゃないだろうか。そうか、この男が戦士の天敵って言われてた奴か。
ディーカと呼ばれた男はそれをまったく気にしていないようでふんと鼻で笑った。
「相変わらずクール気取りかレオ。そんなことでは私がお前より強くなる日も近いな」
「一度も俺に勝ったこと無いのにか」
「ぐっ…今日こそは負けん!」
受け止めた棍棒を戦士の剣が弾いた。一歩後退して距離をとる戦士に対しディーカは迷わず踏み込み間合いを詰める。武器同士がぶつかり合う音が何度も響いた。
「あっちゃ、今回はれったん見つかっちったんだね」
いつの間にかキョウが俺の横に立っていて、肩に寄りかかってきた。突然のことに驚く暇も無い。
「なんだ、キョウ。今回は珍しく表に出てきたんだな」
キラーが仲間の体力を回復しながら話しかける。へらへら笑いながらキョウはうん、と頷いた。
「リュウちゃんの初Gvですから!お父さんとしてこれは成功させてあげないとと思ってだね」
「俺はいつから息子に」
つい突っ込むとキョウはギルドに入った瞬間から!と自信満々に答えた。
「ま、そーいうわけだから~」
締まらない笑みを浮かべたままキョウが杖を掲げた瞬間、味方の紋章をつけたギルメンが一気に凍りついた。
「…ちょっとだけね♪」
杖を一振りする。なぜ仲間のギルメンが凍りついたのか理由がわからなかったけれど、すぐに俺は理解することになる。
地鳴りがした、と思った次の瞬間。空から敵目がけて隕石が降り注いだ。ウィザードの技、メテオだとすぐにわかった、が。
「こらぁぁぁぁキョウ!!あんたなにメテオってるのよ!」
「え?今日のGvはメテオ禁止だったっけ?」
「違うけどお前は常にメテオ禁止だって言ってあっただろう!」
両脇からコトハとキラーにキョウは殴られていた。目の前では敵を地面ごと吹き飛ばすメテオに相手のギルドが全滅寸前まで追いやられている。
メテオは見る機会の多い技だが、ここまで破壊力のあるものを見たのは始めてだ。
なるほどこれではコトハ達が禁止するのもわかるな…
凄まじい轟音と衝撃に土煙が広がり、視界が遮られた。思わず目を手で庇う。
それがまずかった。
突然強い力で肩を掴まれ地面に押し倒される。メテオの雨をすり抜けた敵の剣士が剣を振りかぶっていた。
――しまった、俺は狙われていた。
気づいてももう遅い。
利き腕は押さえ込まれて武器を取り出せない。土煙でまわりのギルメンもこの状況に気づけない。
「…ッ」
せめて無様な声なんか出してたまるかと歯を食いしばって来るであろう痛みに備えた。
「ッぐぁ」
「!?」
けれどそれより先に何かが剣士の脳天を直撃して鈍い音を立てた。
今しかない隙を見計らって緩んだ拘束を弾き、相手の関節目がけて俺は仕込んであった暗器の針を打ち込む。
ぐらり、敵の身体が傾きそのまま地面に倒れた。針には即効性の痺れ薬を塗っておいたのでもう効いてきたのだろう。倒れたまま動かなくなった。
突風が吹いた。視界を悪くしていた土ぼこりが一気に吹き飛ばされていく。
開けた視界の真ん中で、伏した剣士を見下ろしながら俺は立ち上がった。
ちょっと頑張ったシーフくん。
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