「やっぴーリュウちゃん」
「………おはよう」
慣れ行きというか、ほぼ無理やり入れられたギルド。
最近わかったことは、とりあえず
不審人物変わっている人が多いということだ。
今朝のように窓から勝手に入ってきた、このGMのように。
「あのさ、そこにドアというものがあるから」
「気のせい☆」
何が☆なんだろう。
「今日も元気に不法侵入か。お盛んなことだな」
「お前が言うな」
俺はというとあれから数日たっても戦士に付き纏われている。宿を変えれば一緒に泊まるし、クエストに行くにも買い物に行くのにもくっついてくる。これは世界中の誰に聞いても全員一致でストーカーなんで、そろそろアリアンの警備隊に突き出してもいいですか。
「あれ、君達一緒に泊まってんの?」
「まあな」
「まあなじゃないだろ。アンタが勝手に二人部屋に変更してるからだろ」
でもこうして何日か行動を共にするうちに少しこいつの生態系が分かって来た。最新の生態情報ですよ奥さん。
まず一つ目。胃袋が化け物だってことだ。一昨日あたり、戦士が奢ってくれるっていうから飯屋に寄った。ここまでは良かった。その後、戦士が渡されたメニューをペラペラと捲って
「ここからここまで全部くれ」
1ページ分の飯を頼んだ。
ホントにこういう頼み方する奴はじめて見た。運ばれてきた量の多さに気持ち悪くなったので、俺はサラダしか食わなかった。チャーハン、スパゲティ、サラダ、ステーキ、トマトスープ、その他もろもろ…
あんなの見たことあるか?いや、俺はない。少なくともあんな間近でガツガツ食ってるやつ見たことない。むしろすがすがしいくらい食ってる相手を見ることができて食欲が失せるのでダイエットには最適だと思われ。
「なんだ、それしか食わないのか?体力がもたないぞ」
アンタのせいだ!と思ったけどなんかもう何も言いたく無かった。
それからすげーザルだ。道具じゃない、酒のほうだ。
いやそれは二度目に会った時になんとなく分かってたけど。昨日の夜、バーで一杯引っかけてたらまた横に来て。次から次へとスピリッツ系を飲んでは頼み、飲んでは頼み、マスターも目を丸くしていた。だってあれだ、40度近いテキーラだのラムだのをガブガブ水みたいに飲んで行くもんだから俺はマスターが水と間違えて出したんじゃないかと思ったくらいだ。
それから異常に気配に敏感だ。今日の夜、夜中に外から帰って来たらすでに戦士は寝ていた。俺も寝るかと思って装備を外していると、窓に一羽の鳥が来た。俺がそっちに視線を向けた瞬間、すでに戦士の手は剣を掴んでいて音もさせずに窓のほうへとその切っ先を向けた。
まるで時間が止まったようだった。
一瞬の間をおいて、鳥は危険を感じたのか慌てて空に飛び立っていった。戦士が剣を降ろすと場を支配するぴりぴりとした空気がふっと消えたような気がした。
「…鳥」
呟くと剣を鞘にしまって、ベッドに倒れこんだ。顔を覗き込んだときにはすでに眠りに落ちていた。なんという早業。
とりあえずわかったことは、戦士は結構変わってるということだろうか。
なんであんなに食えるんだろうとか、なんでちっとも酔わないんだとか、なんであんなにぴりぴりしてるんだとか、聞きたいことが山ほどできてしまったので俺はもうしばらく戦士と行動を共にすることにした。それにどうせ何を言ったって、向こうから離れる気はあまりないようだったし。成り行きでギルドも同じところに入っちゃったし。離れようにも離れられなくなってしまった、というのが正しいだろうか。
「リュウちゃん」
「なに?」
「どうして名前で呼んであげないの?」
服を着替えているとベッドに腰掛けているキョウがそう聞いてきた。
「レオのこと、戦士って呼んでるよね。どして?」
「んー…そうだなあ、強いて言うなら」
俺はそこで一度言葉を切って、なんと説明しようか迷った。
うんうん、とキョウは真剣に俺の次の言葉を待っている。
「強いて言うなら、」
ドアが開いて戦士が入ってきた。腰にホルダーを巻きながら俺達に声をかける。
「さっさと朝飯食って出かけるぞ。キョウ、お前飯は食ったか?」
「あーもういいとこだったのにー!」
「は?」
「今リュウちゃんにレオをなんで戦士って呼ぶの?って聞いてたとこなのにー」
「まあ大した理由じゃないから気にしないでくれ」
こーなったら朝飯レオに奢らせたる!と意気込んでキョウは部屋から出て行った。俺もそれに続いて部屋を出ようとすると、戦士に腕を掴まれる。
「どんな理由だ?」
さっきの話の事だと気づきその顔があまりにも真面目だったから少し笑いそうになった。
「俺はまだお前を名前で呼べない」
「へ?」
名前は知っているはずなのに「呼ばない」ではなく「呼べない」とはどういうことだろう。戦士は構わず言葉を続ける。
「キッカケはお前がつくれ」
「…なんだよそれ、わけわかんねえ」
まだわからなくていいと言って戦士は俺の腕を解放した。
「先に行ってる」
戦士は剣を持つとドアの向こうへ消えてしまった。
数日経った今も、俺はまだ戦士をちっとも理解できないでいた。
(理由?悔しいからに決まってんだろ)
何もかも奴のペースであることが。
俺はなんて運の悪い男だろう。そもそも出会ってしまったのが運のツキというものなのか。
あいつは俺を、理解できてるんだろうか。
両者とも腹の探りあい状態。どうもウチのシフはツンデレでいけねえや(?)
シーフはまだ戦士のことを何も知らないって感じですね
次はちょっとした事件が起きます。これでお近づきになれるといーねー
PR